2024.06.02
土地購入は所有権と借地権のどちらがおすすめ?メリットとデメリットを解説
不動産情報を見ていると、立地が良いのに価格が安い「借地権」の物件を目にすることがあります。
本記事では、土地の所有権と借地権の違いやメリット・デメリット、おすすめの土地の購入方法などについて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
INDEX
土地の所有権について
不動産広告には、その物件を買うことで得られる権利が必ず記載されています。そこで目にする所有権とは、どのような意味なのでしょうか。所有権とは、物件の中でもっとも強い絶対的な権利です。
土地の所有権とは
所有権とは、民法206条で「自由に所有物を使用、収益、処分ができる権利のこと」と定められています。つまり土地の所有権は、所有者が土地を自由に利用できる権利です。
たとえば、所有者は自分で家を建ててそこに住んだり、他人に売ってお金を得たりできるのです。地上だけでなく地下も利用ができ、他人に対して権利に関する主張も認められます。
以下の図のように土地から、その上に建つ建物まですべてに権利を行使できるのが、土地の所有権です。
ただし、土地の所有権は諸法令の制限によって、行使できないケースもあります。どのような法令制限があるのか、以下でご説明します。
不動産の権利の取得については、こちらの記事も参考にしてください。
不動産を取得した時に必要な「登録免許税」とは何?|住宅展示場のハウジングステージ
土地の所有権が制限される法令
所有権という個人の権利が制限されるケースは、公共の福祉が理由となります。公共の福祉は、不特定多数の方の権利と考えて良いでしょう。
自分の土地だからといって好きな使い方をしていると、問題が起きることがあります。街づくりや産業の発展の妨げになり、誰かの暮らしをおびやかすような状況は、法律で制限する必要が出てきました。
以下のような法令によって、土地の所有権を制限するケースがあります。
- ● 建築基準法
- ● 農地法
- ● 国土利用計画法
- ● 都市計画法
- ● 土地区画整理法
- ● 宅地造成規制法
建築基準法
建築基準法は建物を建てる際の場所や構造の基準で、最低限守るべき基準を示した法律です。
敷地や道路、建物の用途、土地に対する建ぺい率や容積率などの決まりを規定しているため、土地の所有者はそれに則した土地利用を守ることになります。
農地法
農地法や農業の保護育成の観点から、土地利用の調整や優良農地を確保することなどを図ります。農地の売買の際は、農業委員会の許可を受けて行う決まりを通して、農地管理が行われています。
国土利用計画法
国土の利用や保全を進めるために、土地取引の規制措置を設ける法律です。
土地の不当な高騰などを防ぐために、一定の土地取引について都道府県知事への届け出が義務化されています。必要に応じて土地売買等の契約に関する勧告が出されることがあります。
都市計画法
街の暮らしやすさや、環境を良くすることを目的に、街づくりのルールを設ける法律です。用途地域といって、市街化を進める街を住居系・商業系・工業系の3つに区分します。
どの用途地域に属するかによって、周囲にできる建物(商店、工場、病院などの種別)や建ぺい率、容積率、高さなどの制限内容が異なってきますので要注意です。
土地区画整理法
街や公共施設の利用が有効にできることを目的に、街の区画割から所有権の調整まで、大規模な管理を行うための法律です。
区画整理事業地内の土地の所有者は、土地の資産価値が上がるかわりに、事業完了まで所有権が凍結される形となり、借り入れの担保などにできません。したがって、区画整理前の従前地からの所有者などは、所有権が確定するまで住宅ローンが組めません。
宅地造成等規制法
宅地造成によって起こる崖崩れや、土砂の流出を防止するための法律です。
所有する土地が宅地造成工事規制区域内の場合は、造成工事の実施にあたって都道府県知事の許可が必要となります。造成工事とは、切土・盛土などを行って傾斜地を平らにすることなどです。
土地の借地権とは
土地に関する権利のうち、土地自体を所有しないのが借地権です。借地の名の通り、土地を借ります。土地を借りることの特徴は、どのような点かをご説明します。
土地の借地権の特徴
借地権とは、土地を土地の所有者から借りて使用できる権利です。借地権を契約して取得することで、借地上に家を建築して住むことができます。
賃貸物件は建物を借りて住みますが、借地権は下図のように土地だけを借りて、家は自分のものという構図になります。
借地権を持つ方のことを借地権者、土地の所有者のことを借地権設定者といいます。借地権者は土地所有にかかる負担がない分、低予算で土地を利用できるでしょう。
反面、借地であることの不都合もあります。借りている土地なので、自由に売却したり貸したりはできません。また、何らかの事情で住んでいる家を売却したくなった際には、土地の所有者の承諾を得る必要があります。
このほか、所有する家について改築などの変更を加えるなどの際にも、土地所有者の承諾が必要となるなどの制約があります。
借地権には種類があり、それぞれ借地権者が行使できる権利が異なります。借地権の土地購入を検討される方は、持っておいたほうが良いでしょう。
土地の借地権の種類
現行の借地借家法の借地権には、大きく分けて以下の3つがあります。
旧借地権
旧法借地権ともいい、現行借地借家法施行の1992年8月1日以前に行われた借地権付きの土地購入に適用されています。
旧借地権の契約期間は、期間の定めがない場合木造で30年、鉄骨や鉄筋コンクリート造の建物で60年です。期間の定めがある場合は木造で20年以上、鉄骨や鉄筋コンクリート造の建物で30年以上とすることと定められています。
ただし旧借地権は借地権者の権利が非常に強く、土地所有者から土地の返還=借地権の解約をもとめて正当事由を主張しても、ほとんど認められることはありません。
したがって旧借地権は、契約終了後も更新により土地を借り続けることが可能となっています。
旧借地権 | 期間の定めなし | 期間の定めあり | ||
---|---|---|---|---|
契約時 | 更新時 | 契約時 | 更新時 | |
鉄骨・鉄筋コンクリート造 | 60年 | 30年 | 30年以上 | 30年以上 |
木造 | 30年 | 20年 | 20年以上 | 20年以上 |
普通借地権
普通借地権は1992年8月1日以降の新借地借家法施行以降の契約で、次項の定期借地権以外の土地の賃貸借を規定したものです。
契約期間は30年以上で、期間の定めがなくとも30年となります。更新する場合は1回目が20年以上、2回目が10年以上とされ、旧法と異なり建物の構造による契約期間の差がありません。
土地所有者からの解約には正当事由が必要な点は、旧借地権と変わりません。しかし、新法以降の正当事由の内容が具体化し、立ち退き料の支払いで更新拒絶が可能となりました。
これによって、土地の所有者は安心して土地を貸せるようになったともいえます。
普通借地権 | |
---|---|
更新 | あり |
期間 | 30年、契約で30年超えも可能 |
目的 | 制限なし |
手続き | 書面は必ずしも必要ではない |
定期借地権
定期借地権=定借と略します。1992年の新法施行から契約可能になった借地権です。借地権設定の期間を限定して更新ができない契約で、期間を延長する場合は再契約が必要となります。
定期借地権には一般定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付借地権の3種類があります。
3種は建物の用途などによって分けられていますが、下図のようにいずれも契約更新はできません。
定期借地権 | |||
---|---|---|---|
一般定期借地権 | 事業用定期借地権 | 建物譲渡特約付借地権 | |
更新 | なし | なし | なし |
期間 | 50年以上 | 10年以上50年未満 | 30年以上 |
目的 | 制限なし | 事業用建物のみ | 制限なし |
手続き | 公正証書等の書面 | 公正証書 | 建物を土地所有者が対価を払って譲り受ける旨の特約 |
新借地借家法の施行から30年以上が経過していますが、旧借地権の物件はいまだに数多くが売買されています。
地上権と賃借権
ここまでは法制上の借地権の種別ですが、借地権にはまた別の軸で地上権と賃借権 という2つの種別が存在します
地上権は土地に対する権限が強く、所有者(地主)の承諾なしに地上権を譲渡したり、土地を賃貸したりなどが可能です。
賃借権の場合は、そこまでの権限が認められず、譲渡や転貸、建物の建て替えなどの際には土地所有者の承諾および、借地の契約の際に支払った権利金の3~5%相当の承諾料が必要となります。
一戸建ての賃借権の場合は、ほとんどが賃借権で、地上権はマンションの借地権付き売買において一般的な借地権です。
所有権で土地を購入する場合のメリット・デメリット
この項では、所有権のメリット・デメリットを比較します。総じて、所有権は借地権より利用するうえでの自由価値が高いことがポイントです。
所有権で土地を購入する場合のメリット
所有権の土地利用の自由度の高さは、法令制限の範囲であれば、所有者の一存で権利を行使できるところです。
建物の建て替えや増改築も自由にでき、売却や賃貸して収益を得るうえでも、制限はありません。借地権で建物だけ所有するよりも、資産形成上の価値も高く、住宅ローンの審査上も有利となるでしょう。
また、借地に関連する地代や更新料、承諾料などの経費がかからない点もメリットです。
所有権で土地を購入する場合のデメリット
所有権の場合は、購入に要する費用が高くなるのはいうまでもありません。土地の価格以外に登記、取得税、仲介手数料などの諸費用も支払うこととなります。
また、維持する間も、固定資産税や都市計画税の納税が必要です。
購入時の諸費用や、維持するための毎年の納税額は、土地の販売価格と固定資産税評価額が分かれば、おおよその計算が可能です。事前に概算してみることをおすすめします。
借地権で土地を購入する場合のメリット・デメリット
つづいて借地権の特徴ですが、もっとも注目されるのは、お買い得な土地が多い点でしょう。
借地権で土地を購入する場合のメリット
同じ立地条件であれば、所有権の土地に比べて、借地権の土地の購入費用はかなり安くなります。
希望の立地があるけれど、予算が届かないようなケースでは、借地権の土地を検討することで、希望が叶うこともあるでしょう。
また、毎年かかる土地の固定資産税や都市計画税は土地の所有者が支払うので、借地権者には負担がありません。
借地権で土地を購入する場合のデメリット
賃借権の土地は更新から建て替え、増改築、賃貸するなど、土地所有者の承諾が必要であり、自由に利用できないといえます。
また、土地の税金は不要なかわりに、毎月の借地料のほか、購入時の権利金 や更新の際の更新料、建物にかかる固定資産税・都市計画税は借地権者の負担です。
そして、所有権より低価格で入手しやすい分、所有権よりも資産価値が低いです。
このため、住宅ローンの借り入れが困難な場合もあります。これは後述する借地権割合などの関係で、金融機関が担保価値として難色を示すためです。
土地がないということは、建物を失った場合、再建築や土地の用途など、いろいろと面倒なことが起きます。
極端な例として、都心で格安の旧法借地権・再建築不可の物件を購入し、かつ火災保険が有効でなかった場合、建物が火事になったら、借地権者には何も残らないことになります。
ただし、借地権の土地が資産にならないわけではありません。都市部の借地は立地が良いことで利用価値が高いため、相応の価格で取引されます。
所有権で土地を購入したほうが良いケース
所有権の土地購入が向いているケースについてご説明します。以下の場合は所有権がおすすめです。
- ● 自由度の高い家をつくりたい
- ● 子どもに資産を引き継ぎたい
- ● 流動性の高い不動産投資がしたい
自由度の高い家をつくりたい
建築後にも、生活のスタイルの変化に合わせて増改築や敷地の買い増しなどを行い、土地の用途も自由にしたいという方には、所有権の土地が向いています。
自由度といえば、仕事や学校の都合で転居が必要になったときに、家を売りやすいのも土地の所有権付きの物件です。土地付きのほうが、買主の方のローンが通りやすいためです。
子どもに資産を引き継ぎたい
不動産は、相続の際に分割の問題は出るものの、引き継ぎやすい資産といえます。所有権の土地は、引き継いだ後も何かと面倒がなく、価値も高い点では相続に適した資産になるでしょう。
流動性の高い不動産投資がしたい
家づくりの知識ではありませんが、投資用物件でも売りやすさは大切な要素となります。流動性とは、売りたいときにすぐ売りやすいことです。売りやすい物件のことを「出口戦略がとりやすい」とも表現します。資金力が薄い投資希望者も、ローンを組んで購入しやすいのは土地所有権の物件です。
したがって、投資物件として購入するには、最初から流動性の高い所有権の物件が良いという考え方となります。ただし、この方向性が100%正しいとは限りません。
利用価値が高ければ、現金での購入希望者があらわれることもあるためです。
借地権で土地を購入したほうが良いケース
つづいて、借地権の土地購入が向いているケースについてご説明します。以下の場合は借地権がおすすめです。
- ● 家の立地や予算にこだわりたい
- ● 高利回りの不動産投資をしたい
家の立地や予算にこだわりたい
家づくりの予算には限りがありますが、その中で極力利便性が良い土地を確保したい、あるいは家の建物に予算をかけたいと考えた場合に魅力的なのが、借地権売買です。
借地権の土地は、所有権のおよそ6割から8割の価格で入手でき、固定資産税・都市計画税の支払いも不要なため、やはり長い目で見てもお買い得になることが多いでしょう。
ある試算で金利2.3%・35年ローンの場合で所有権と普通借地権の比較を行い、借地権のほうが支払額が少ない結果が出ています。
その差は、1回目の更新料の支払いを含んでも、16年間で約1,000万円、支払いトータルの35年間で約2,000万円にもなります。
ただし、借地権の土地で家を建てるための借り入れの場合、金融機関から借入限度額や火災保険加入条件、複数の連帯保証人などの制限を受ける場合もあるでしょう。
借地権だからといって、持ち家の用途として期間が短すぎる、ということはありません。旧借地権や普通借地権は更新が可能で、前述のようにほぼ永続的に借地権者を継続することも可能でしょう。
高利回りの不動産投資をしたい
家づくり同様に投資用物件も、借地権物件の安さを活かして高利回りの運用が可能になります。
借地権には借地権割合 といって、土地の権利のうち借地権が何割を占めるかを示すものがあり、借地権の相続税や贈与税の計算のために算出します。
借地権割合は国税庁がエリアによって定め、割合は30~90%の幅です。繁華街や駅に近い場所など、土地の利用価値が高い場所は高くなり、東京都の銀座エリア周辺などは、90%の割合となっています。(借地権割合が設定されていない場所は、課税対象外です)
借地権割合の高い物件は、現金でも買いたい方が多く、流通も少な目となりますが、もし入手できれば、高利回りの投資が可能となります。また、相続するにも相応の資産価値となります。
土地の所有者移転登記
土地の所有権を取得した場合は、その権利が侵されるのを防ぐために、所有権移転の登記が必須です。登記の手続きについて、ご説明します。
所有者移転登記について
不動産の所有権は、売買契約してお金を払っただけでは、法的に第三者に対して権利を主張することができません。
たとえば第三者に無断で土地を利用されたときに、登記なしでは対応する権利が証明されないなどのトラブルとなる可能性があります。
また、土地を売ったり貸したりする際も、取引の相手に確かにその土地の所有者であることを証することで、安心して取引が成立します。
所有権移転登記は、不動産の所在地の管轄となる法務局に名義変更を申請しましょう。借地上にある建物を取得する方は、建物の所有権移転登記を行います。
名義変更に必要な書類の準備
不動産の所有権移転の登記の際に必要な書類は、買主、売主それぞれについて以下となります。移転登記の申請書にこれらの書類を添付し、法務局に提出します。
準備する方 | 書類 | 取得場所 |
---|---|---|
買主 | 印鑑証明書と実印 | 市町村役場 |
住民票 | 市町村役場 | |
本人確認書類 | 免許証やマイナンバーカードなど | |
売主 | 登記識別情報または登記済証 | 登記時に法務局が発行 |
固定資産税評価証明書 | 市区町村役場 | |
印鑑証明書と実印 | 市区町村役場 | |
住民票 | 市区町村役場 | |
本人確認書類 | 免許証やマイナンバーカードなど |
所有権移転にかかる費用
所有権移転にかかる費用は、以下の2種類です。
- ● 登録免許税
- ● 司法書士報酬
登録免許税は、登記手続きの際に納める国税です。登録免許税の計算方法は、固定資産税評価額×1.5%です。
このほかに、住宅ローンで建物を購入する場合は、住宅ローンの抵当権設定登記の登録免許税がかかります。こちらの計算方法は、住宅ローンの借入金額×0.1%となります。
土地の所有権移転登記 | 固定資産税評価額×1.5% |
---|---|
住宅ローンの抵当権設定登記 | 住宅ローンの借入金額×0.1% |
したがって、取引価格2,000万円・固定資産税評価額1,260万円の土地の場合の、登録免許税の例は以下です。
所有権移転登記:1,260万円×0.015=18万9,000円
抵当権設定登記:2,000万円×0.001=2万円
登記は司法書士に依頼して代理で行ってもらうのが一般的なため、その報酬が発生します。報酬の相場は5~10万円となります。
まとめ
土地の所有権と借地権の違いやメリット・デメリット、おすすめの土地の購入方法などについて解説しました。
不動産は長期間にわたって所有するものなので、30年後、40年後の家族の状況を考えてみましょう。
同じエリアで所有権と借地権を比較してシミュレーションし、何がいくらかかるか、どちらが得か、何を相続するかなどを検討してみるのをおすすめします。
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この記事はハウジングステージ編集部が提供しています。