2024.09.09
耐震性能の指標と言われる耐震等級とは?耐震基準との違いやメリットを解説!
この30年以内に阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震など、震度7級の地震を5回経験した日本ですが、さらに南海トラフ地震の広域にわたる臨時情報が発表されました。しかし、地震から家を守るための技術も目覚ましい進化を遂げています。
本記事では、耐震性能の指標と言われる耐震等級とは何か、耐震基準との違いや等級を上げて家を建てることのメリットなどを解説します。家づくりの際の安全を考える参考にしてください。
INDEX
なぜ地震で家が倒壊してしまうのか?
まず、地震が家にもたらす被害のイメージを持ちやすくするよう、地震で家が倒壊したり、被害を受けたりするのはなぜかを解説します。ハザードマップによって、危険度の差は示唆されていても、どこにでも起こりうることとして考えましょう。
倒壊してしまうメカニズム
地震の縦や横の大きな揺れが家屋に加わった際に、建物は歪んだり傾いたりなど、変形させられることになります。
変形のショックで、柱と梁や土台が組み合わさる部分(接合部)が外れたりゆるんだりし、部材自体のひびや破損なども起こることで、生じる現象が倒壊です。大きな縦揺れは、基礎が地盤から浮いたり抜けたりさせてしまうこともあり、その場合家屋が元の位置から動き、傾きが起きます。
これらのダメージが一定以上になると、倒壊に至らなくても、修復できずに取り壊しせざるを得ない症状となるでしょう。
比較的耐震性の高い鉄骨造、RC造に比べて、木造の耐震性能はやや劣ります。ただし新しい金物の開発など技術が進んで、建築基準法改正の2000年頃から、鉄骨住宅とそれほど変わらない耐震性を発揮できるようになりました。
木造戸建ての場合、筋交いや構造用合板で強化した耐力壁の量と配置のバランスが、倒壊を防ぎます。現行の建築基準法では、耐力壁の量やバランスを考慮して設計することが義務です。
このほかに地震で受ける可能性のある被害としては、津波によって建物が流される、地震に伴う火災で焼失するなどがあり得ます。これらすべては地震保険のカバー対象となります。なお、地震が原因で起きた火災は、火災保険ではカバーされず、地震保険の加入が必要です。
耐震性能の指標として使われる耐震等級とは?
現在耐震性の指標となっているのが、耐震等級です。耐震等級は2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)で定義された、耐震性を判断する際の基準です。耐震等級は第三者の審査を受けて認定され、各住宅メーカーや工務店が、商品の性能基準としても表示しています。
生命や財産を守ることから、建物を維持して資産価値を守るレベル分けは3段階です。等級1はこれよりも弱い構造は危険というレベルとなり、等級2は等級1の1.25倍の強さ、等級3は等級1の1.5倍の強さと定義されています。
等級が上がるほど、強い揺れの中でも建物が維持されますが、反面基本的には柱や梁が太くなり、窓などの開口部が小さくなるなど、建築上の制約を受ける場合があります。
以下は耐震等級それぞれの目安です。
耐震等級1
耐震等級1は、建築基準法で定められた、最低限度の耐震性を満たす基準で、「新耐震基準」とも呼ばれています。新耐震基準は住宅ローン控除の対象の基準となり、不動産の資産価値の指針にもなっています。
等級1の定義は以下です。
- ● 数百年に一度程度の地震(震度6強から7程度。阪神・淡路大震災や2016年4月に発生した熊本地震クラスの揺れ)に対しても倒壊や崩壊しないこと
- ● 数十年に一度発生する地震(震度5程度)は住宅が損傷しない程度であること
家屋が倒壊しないことで、住む人の生命や家財の財産を守ることにはつながります。しかし、等級1は被害を受けた以降も、修繕することによって建物が使い続けられるレベルの定義ではないことを覚えておきましょう。
修繕に多額の費用がかかったり、建て替えが必要となったりすれば、金銭的な問題だけでなく、生活の変化によるストレスは相当のものを覚悟しなければなりません。
耐震等級2
耐震等級1の1.25倍の地震に耐えられる性能・耐震強度の水準が等級2です。
「長期優良住宅」の認定を受ける場合、耐震等級2以上をクリアすることが条件とされています。また災害時の避難所として指定される学校などの公共施設は、耐震等級2以上の強度を持つことが必須の要件です。
等級1の対象となる地震以上の規模のものは、現状記録上では体験されていません。しかし地震の揺れの被害は、建っている場所の地盤などにも左右されることがあります。熊本地震の際に、等級2の家屋が倒壊した例も報告されており、「等級2なら必ず安心」とならないのが現状です。
耐震性能で「耐震等級2相当」という表現があります。相当とは、耐震性能は等級2で作っているが、認定を受けていない状態を指します。認定を受けることで以下のメリットがあるので、手続きを行いましょう。
- ● 地震保険料の割引
- ● 固定資産税の減免
- ● フラット35Sでの金利優遇
- ● 贈与税の非課税枠の増設
耐震等級3
耐震等級1の1.5倍の地震力に耐えられるだけの性能・耐震強度水準を持つとされる耐震等級3は、現在もっとも優れた性能の定義です。
一度大きな地震の被害に遭っても、建物のダメージが少なく、住み続けられる状態を目指しています。大きな余震がきても安心できますが、屋内の家具や家財の倒壊の危険性があるので、余震が収まるまでの避難は推奨されるでしょう。
災害時にもダメージを受けずに救護や復興に向けての活動拠点となる消防署・警察署は、耐震等級3で建築されます。
地震保険料の割引は、等級1で10%、等級2で30%ですが、等級3の場合は半額にまで割引されます。保険は長期にわたって払い続けるものです。それなりの差となってくるので、安全性だけでなく、家のランニングコストにも影響がある点も、考えてみましょう。
耐震基準と耐震等級の違いとは?
家を地震から守る性能について、耐震基準と耐震等級、耐震・免震・制震などがあります。ここであらためて言葉の違いを整理しましょう。
まず耐震基準と耐震等級の違いです。
耐震基準とは、地震による建物の安全性を確保するための、最低限の基準です。これを満たしたのが耐震等級1でした。建物が倒壊しなければ、さしあたり命の危険は軽減され、家の中の財産も比較的保全されるでしょう。
耐震基準は日本国内のあらゆる建物に求められ、これを満たさない建物は作ってはいけません。関東大震災の翌年1924年に初めて制定されて以来何度かの見直しが行われ、1995年の阪神・淡路大震災以降は、2000年に見直しがされています。
これに対して耐震等級は、耐震基準のレベルをさらに強化していくべく、倒壊防止だけでなく損傷防止の観点からも、基準が定められています。
本来財産としては、家屋自体が家族にとってもっとも大きなものです。保険による保障だけでなく、建物の強度自体で家族の生活やお金を守りたいものです。
耐震・免震・制震の違いは?
耐震以外に、免震や制震という言葉が、建物への地震被害を防ぐ方法として使われます。耐震との違いは何でしょうか。
まず耐震は、建物の構造や部材の強度で地震の揺れに対抗する方法です。
これに対して免震は建物の基礎と地盤の間に、地震の揺れを逃がし、伝えにくくする構造をはさみます。建物に伝わる揺れの強さを軽減し、被害を少なくする方法です。
制震は特殊な装置で地震の揺れを熱エネルギーに変換し、地震の揺れを吸収する方法です。
いずれの方法も戸建ての注文住宅への応用が進んでおり、今後も技術の進歩とコストダウンが期待されます。
耐震性能の高い家を建てたいときは?
高い耐震性能を持つ家を建てたいとき、主に以下の点に留意しながら設計・施工を進めます。
家の耐震性能を高めるノウハウ
構造計算 | ● 壁倍率(耐力壁の強さ)や、耐力壁の量と配置のバランスを踏まえた構造計算を行う |
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壁の強化 | ● 必要な箇所に筋交いを入れる ● 構造用合板や耐力面材を使う |
床と屋根の強化 | ● 床に構造用合板を使う ● 軽い屋根材を使って揺れを抑える |
柱・梁の接合部の強化 | ● 接合金物を使う |
基礎の強化 | ● ベタ基礎にする(水平面もコンクリート打ちする) ● 基礎のコンクリートを厚くする |
梁の強化 | ● 集成材などの強度の高い建材を使う ● 金物工法によって木材を切削する加工を減らす |
構造計算は、用途に合った方法で正確な調べ方をする必要があり、計算によって耐震性に違いが出ないようにしなくてはなりません。
注文住宅では、家族の住まいに対する希望をかなえるために、さまざまな要望がリストアップされることでしょう。しかしときには、耐震性能の確保とは相いれない部分が出ることもあります。
優先順位を考えながら、うまくバランスをとった家づくりを目指しましょう。
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【耐震等級3】の強度は熊本地震でも倒壊はゼロ
前述しましたが、2016年の熊本地震では、耐震等級の違いによる被害状況の違いが浮き彫りになりました。震度7クラスの地震が2回おそったため、2回目の揺れが被害をあぶりだした形になったといえるでしょう。
まず、耐震等級3の家屋は1棟も倒壊しなかったことで、その耐震性能を証明する形となりました。反面等級1を満たさない家屋は18%が倒壊・崩壊し、無被害は5.1%にとどまりました。震度7級で倒壊を防ぐという等級1の耐震基準も、2回目の地震によって防ぎきれず倒壊を許した形になったと考えられています。
また、建築年次と被害状況にも相関があります。国土交通省の調査によると、同地震で平成12年(2000年)以降の基準で作られた家屋が無被害であった確率は61.4%です。軽微・小破・中破の32.6%と合わせると、94%が深刻な被害を免れたことになります。
以下は国土交通省の調査で、平成12年(2000年)以降の耐震等級3と等級1(建築基準法レベル)の被害状況の差を示したデータです。
耐震性能は事前に定めているケースが多い
住まいの建築や設計を行う会社は、一定の耐震等級を基準にしてフリープランの設計を受け付けています。その基準が等級2であれば、打ち合わせが進んでから「等級3で建ててください!」という要望には応じられなくなります。
その場合、壁の量や基礎の仕様など、設計上の基本的な構造が大幅に変わる可能性があるためです。つまり最初の段階から耐震等級などの要望を明らかにし、設計部署に伝えることが必要となります。
どんなに豪奢な建材を使い、ぜいたくに見える家でも、施主からの要望がなければ、外観にお金をかけて耐震性能は等級1の家にすることも可能です。
しかし、大規模・広範囲の震災の場合、地震保険の性格上、当初契約した補償内容を満たせない事態になることもあり得ます。
全壊扱いでも解体が必要な建物を処分し、新たに住居を確保することになれば、軽い補修で済み続けられる場合とでは大きな差となります。しっかりした家を建てることが、年々重視されていくようです。
まとめ
耐震性能の指標と言われる耐震等級とは何か、耐震基準との違いや等級を上げて家を建てることのメリットなどを解説しました。
耐震等級が分かりやすい形で耐震性能に直結している点、全体予算をかければ比例して耐震性能が上がるものではないなどの点は、意外に感じられたのではないでしょうか。
2024年1月にも北陸エリアで大規模地震を経験し、今後も太平洋岸を中心に、広範囲の震災リスクが高まっているといわれています。耐震性は住宅性能の中で、今後さらに大きな比重を占めることになるでしょう。家づくりの際には、さらに深いご検討をおすすめします。
執筆・情報提供
滋野 陽造
マスコミ広報宣伝・大手メーカーのWebディレクター・不動産仲介業を経て、ライター業・不動産投資に従事。
実務経験をもとに、不動産の購入・売却、住まいの知恵、暮らしの法令などのジャンルを中心に記事の執筆を行う。
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