2024.12.26
住宅ローンの金利上昇の背景は?対策方法やシミュレーションも紹介
住宅ローンは多くの方にとって人生で最大の借り入れとなる重要な選択です。住宅ローンの金利動向は、返済額や将来の家計に大きく影響を与えます。特に近年は経済情勢の変化や日本銀行の金融政策の影響を受け、金利が緩やかに上昇する傾向が見られます。
当記事では、住宅ローン金利の現状や上昇の背景、さらに金利上昇時の対策について詳しく解説します。返済計画を立てる際のポイントや、金利タイプごとの特徴も取り上げるので、これから住宅ローンを検討する方はもちろん、すでに住宅ローンを利用している方も参考にしてください。
INDEX
1. 住宅ローンの金利は上昇している?
住宅ローンの金利は2022年頃から上昇しつつあります。
一例として、フラット35(借入期間21年以上35年以下・融資率9割以下・団信有り)の最低金利は、2022年2月頃まで1.3%前後で推移していました。最高金利は2.1~2.2%程度です。
フラット35の最低金利は2022年3月に1.43%を超えた後は徐々に上昇を続けて、2024年12月時点では1.86%になっています。最高金利も3.57%になっており、金利上昇の傾向が現れています。
1-1. 金利が上昇している背景
住宅ローンの金利が上昇している背景には、主に「短期プライムレートの上昇」と「店頭金利の引き下げ幅の縮小」があります。
- 短期プライムレートの上昇
短期プライムレートとは、金融機関が大企業に対して1年未満の短期貸付をするときに適用する最優遇金利のことです。金融機関が設定する変動金利型の住宅ローンは、短期プライムレートに一定幅を上乗せした数字を店頭金利としています。短期プライムレートが上昇すれば、変動金利型の店頭金利も上昇する仕組みです。
- 店頭金利の引き下げ幅の縮小
住宅ローンの金利には店頭金利(基準金利)と適用金利があります。店頭金利は金融機関が設定するもともとの金利であり、もうひとつの適用金利は店頭金利から金利の引き下げを行った後の金利です。金融機関は住宅ローンにさまざまな金利優遇を行っており、契約時に使われる金利は適用金利になることがほとんどです。
近年の住宅ローン業界は、顧客獲得のために店頭金利の引き下げ幅を拡大する競争が過熱しています。
一方で、一部の金融機関は引き下げ幅を縮小する動きを見せており、適用金利の上昇につながっています。
また、短期プライムレートと店頭金利の引き下げ幅の動きには、景気や物価も影響します。特に2022年以降は物価が顕著に上昇しており、住宅ローンの金利上昇にも影響していると考えられるでしょう。
1-2. 今後住宅ローン金利はどうなる?
2024年には日本銀行のマイナス金利解除があったものの、マイナス金利の解除後も住宅ローン金利への大きな影響はありませんでした。金融機関にとって金利上昇は顧客の減少を招くため簡単には行いにくく、今後も急激な金利の上昇は考えにくいとされています。
ただし、変動金利の基準となる短期プライムレートはすでに上昇しており、固定金利についても2022年頃から上昇を始めている状況です。
日本銀行が政策金利の利上げをすることも予測されていて、今後の住宅ローン金利は緩やかながらも上昇していくと考えられます。
2. そもそも住宅ローンの金利とは?
住宅ローンの金利とは、住宅ローンで借りた金額(元金)に対して、返済時に元金にプラスして支払うお金(利息)の割合です。「利率」と呼ばれることもあります。
金利は下記の計算式で算出できます。
金利(%)=利息÷元金×100
例として元金が4000万円で利息が80万円の場合は「80万円÷4000万円×100」で計算し、金利は2%です。
また、金利はどの期間を単位として定めるかによって、年利・月利・日歩の3種類に分けられます。住宅ローンの金利は、1年間を単位とする年利で表示することが基本です。
なお、住宅ローンの返済方法は「元利均等返済」と「元金均等返済」の2つがあります。
- 元利均等返済
元利均等返済は、毎月の返済額(元金+利息)が一定となるように返済する方法です。返済額が一定となるため返済計画を立てやすいメリットがあります。 - 元金均等返済
元金均等返済は、毎月の返済額に含まれる元金の額が一定となるように返済する方法です。返済額に占める元金の割合を高く保ちやすく、完済までの期間が同じであれば元利均等返済よりも総返済額を少なく抑えられます。
住宅ローンの金利が同じであっても、どちらの返済方法を選ぶかによって返済額には違いがあります。住宅ローンは金利だけでなく、返済方法もよく調べて選びましょう。
3. 住宅ローン金利の種類
住宅ローン金利には「変動金利型」「固定金利型」「固定金利期間選択型」の3種類があり、それぞれ金利や返済額が異なります。
以下では3つの金利タイプの特徴と、どのような人に向いているかを解説します。
3-1. 変動金利型
変動金利型は、短期プライムレートを基準として店頭金利が決まります。変動金利型の金利は通常半年ごとに見直しが行われて、返済期間中に何度か適用金利が変更されることが特徴です。
変動金利型のメリットは、一般的に固定金利型よりも適用金利が低く設定されている点です。返済期間中に低金利の状態が続けば、変動金利型は総返済額を少なく抑えられるでしょう。
一方で適用金利が上昇した場合は、変動金利型は総返済額が高くなります。返済期間中の金利がどのように変動するかは予測が難しく、正確な返済計画が立てにくいことにも注意してください。
ただし、変動金利型の住宅ローンには返済額の見直しを5年に1回のみとする「5年ルール」があります。金利が上昇しても、毎月の返済額がすぐに増えるわけではありません。返済額の上昇幅を上限1.25倍以内とする「125%ルール」もあり、返済期間中に大きな金利上昇が発生しても返済額への急激な影響が出ないようになっています。
変動金利型は、下記のような方に向いている金利タイプです。
- 金利上昇リスクを理解し、低金利期間を活用して総返済額を抑えたいと考える方
- 万が一の金利上昇にも対応できる方
3-2. 固定金利型
固定金利型は、金利が住宅ローン契約時のまま完済まで変わらないことが特徴です。
固定金利型の金利は、10年国債などの商品に使われる長期金利をもとに決定されます。住宅ローンの契約後は、市場金利が変動しても適用金利は変わらず、総返済額も変化しません。
固定金利型は契約時点で総返済額が分かり、返済計画を立てやすい点がメリットです。契約後の金利は一定であり、金利上昇のリスクも回避できます。
固定金利型のデメリットは、一般的に変動金利型よりも金利が高く設定されていることです。また、金利が低下した場合にも固定金利型は影響を受けないため、市場金利が低金利で推移する状況では変動金利型よりも総返済額が増えます。
固定金利型は、下記のような方に向いていると言えるでしょう。
- 返済期間中の金利上昇に対策したい方
- 総返済額を明確にして、安定した返済計画を立てたい方
3-3. 固定金利期間選択型
固定金利期間選択型は、住宅ローン契約後の一定期間は固定金利となる金利タイプです。
固定金利の期間は3年・5年・7年・10年・15年・20年のように複数から選択できます。期間終了後は変動金利に切り替えるか、再び固定金利の期間を設定するかを選べるようになっていて、金利設定の自由度が高いことが特徴です。
固定金利期間選択型の金利は金融機関によって設定が異なるものの、一般的に変動金利型よりは高く、固定金利型よりは低くなっています。ただし、固定金利の期間が長くなると金利も高くなる傾向があることに注意してください。
また、固定金利の期間が終了した後の金利は、市場金利をもとに見直しが行われます。金利上昇の場面で期間の選択を行った場合、「最初から固定金利型を選んだほうが総返済額が安く済んでいた」という可能性もあるでしょう。
固定金利期間選択型は、下記のような方に向いています。
- 契約当初は固定金利でしばらく様子見をしてから、最適な金利タイプを選びたい方
- ローン契約後の出費に不安があり、数年間は確実な返済計画を立てたい方
4. 住宅ローン借り入れ先の選択肢
住宅ローンは借り入れ先によって、金利の目安やサービスの種類などに違いがあります。
主な借り入れ先を3つ挙げて、それぞれの特徴を解説します。
- 民間金融機関
民間金融機関には都市銀行・地方銀行・ネット銀行・信用金庫などの種類があります。民間金融機関の住宅ローンはサービスの幅が広く、金利も比較的低く設定されていることが特徴です。中でも都市銀行やネット銀行は金利が低いものの、審査は厳しい傾向があります。一方で地方銀行と信用金庫は金利がやや高く、審査は通りやすいと言われています。複数のサービスを比較し、金利の低さや審査の通りやすさで選びたい方に向いている借り入れ先です。
- 公的融資
公的融資の住宅ローンは主に「財形住宅融資」「自治体融資」の2つがあります。財形住宅融資は住宅金融支援機構が提供する住宅ローンで、5年ごとに適用金利の見直しがある5年間固定金利制となっています。融資条件として財形貯蓄を行っていることや、融資対象の物件に条件が設定されていることが特徴です。
もうひとつの自治体融資は、都道府県や市町村が提供する住宅ローンです。制度自体の有無や制度内容は自治体ごとに違いがあるため、利用したい場合はまず自治体に確認しましょう。
- フラット35
フラット35は、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して融資を行う住宅ローンです。借入期間が最長35年の固定金利型で、【フラット35】のほかに【フラット35S】や【フラット35】子育てプラスなど、豊富な商品ラインナップがあります。フラット35は利用条件に年収や勤続年数などの基準がなく、審査が通りやすいことも特徴です。固定金利型であるため変動金利型に比べると金利はやや高いものの、安定的な返済を行いたい方に向いています。
5. 住宅ローン金利が上昇したときのシミュレーション
住宅ローン金利が上昇したとき、返済額にどの程度の影響が現れるかが気になる方も多いでしょう。
フラット35を元金3000万円・借入期間35年・元利均等返済で借り入れると仮定して、金利条件を変化させた場合のシミュレーションを紹介します。
金利(年利) | 1.8% | 1.9% | 2.3% | 2.8% |
---|---|---|---|---|
総返済額 | 約4046万円 | 約4110万円 | 約4371万円 | 約4710万円 |
総利息額 | 約1046万円 | 約1110万円 | 約1371万円 | 約1710万円 |
金利1.8%の場合との差額 | 約64万円 | 約325万円 | 約664万円 |
金利が1.8%と1.9%の場合は総返済額の差額が約64万円にとどまります。でも、金利が0.5%や1%も上昇した場合は総返済額に数百万円もの差が生じます。住宅ローンは返済期間を30年程度の長期で組むことが多く、金利が大きく上昇すると総返済額への影響も大きく現れる点に注意してください。
6. 住宅ローンの金利上昇への対策方法は?
変動金利型や固定金利期間選択型の住宅ローンを利用するときは、金利上昇の対策をあらかじめ考えることが重要です。
住宅ローンの金利上昇に対応するためには、下記のような方法を取るとよいでしょう。
6-1. 景気の動向をチェックする
まずは住宅ローンを利用する前に、日本経済の景気をチェックしましょう。金利と景気にはある程度の連動があり、景気の動向をチェックすると今後の金利が上昇するかどうかを予測できます。
一般的に金利が上昇するのは、景気がよくなっているときです。
景気がよくなると個人消費が活発になり、企業は商品を多く生産・販売するために設備投資を行います。結果として資金需要が高くなり、金融機関は資金供給とのバランスを取るために金利を引き上げるという仕組みです。
反対に景気が悪くなったときは個人消費が減退し、企業も設備投資に消極的になります。金融機関は資金需要を高めるために金利を下げて、企業がお金を借りやすくします。
景気がよくなっていれば今後の金利上昇を予測でき、反対に景気が悪くなっていれば金利低下が見込まれるでしょう。
ただし、金利と景気の関係性はあくまでも原則であり、実際の金融市場でも同じように動くとは限りません。景気がいつどのように変わるかも正確には分からないため、景気の動向は参考程度にとどめることがおすすめです。
6-2. 借入金をできるだけ減らす
「借入金を減らす」とは、住宅ローンの頭金を増やすということです。住宅ローンの借入金をできるだけ減らすと総返済額も減って、金利上昇の局面となっても返済額への影響が出にくくなります。
頭金は自己資金であり、基本的に預貯金からの出費です。頭金を無理に増やすと住宅購入後の生活が苦しくなるため、返済期間中の収支バランスや預貯金の余裕も考慮しましょう。参考として国土交通省の「令和4年度 住宅市場動向調査報告書」によると、新築住宅の自己資金比率は30%前後です。
出典:国土交通省「令和4年度 住 宅 市 場 動 向 調 査 報 告 書」
また、頭金を多く用意すると、利用する住宅ローンによっては金利引き下げの優遇を受けられる可能性があります。金利引き下げの優遇を受けた状態であれば、ある程度の金利上昇にも対応しやすくなるでしょう。
6-3. 繰り上げ返済をする
繰り上げ返済をすると住宅ローンの総返済額が少なくなり、金利が上昇したときにも総返済額の増加を抑えられます。
そもそも繰り上げ返済とは、毎月の返済額とは別に、元金の一部を繰り上げて返済することです。
繰り上げ返済をすると住宅ローンの元金を早く減らせます。繰り上げ返済をした元金分の利息額も減るため、総返済額を少なく抑えられる返済方法です。
繰り上げ返済には返済期間が短くなる「期間短縮型」と、毎月の返済額を減らせる「返済額軽減型」の2つがあります。どちらも総返済額を減らせるものの、金利上昇への対策としてより有効なのは期間短縮型です。
注意点としては、繰り上げ返済をして元金を減らすと、住宅ローン控除の控除額も減少します。住宅ローン控除による節税効果を受けたい方は、繰り上げ返済とどちらが得かを考えたほうがよいでしょう。
6-4. 借り換えを行う
現在利用している住宅ローンの金利が上昇した場合は、より金利が低い住宅ローンへの借り換えを行う方法があります。
住宅ローンの借り換えとは、新しく別の住宅ローンを組み、融資してもらったお金で現在の住宅ローンを完済することです。新しく組んだ住宅ローンのほうが金利が低ければ、住宅ローンの総返済額を減らす効果が期待できます。
ただし、住宅ローンの元金が少なく完済までの期間が短い場合は、借り換えをしても大きな効果は見込めません。住宅ローンの借り換えが向いているのは、住宅ローンの元金が多く、完済までの期間も長い方です。
また、借り換えの際には各種手数料や諸費用が発生する点と、借り換えの条件によっては住宅ローン控除を受けられなくなる点にも注意してください。
6-5. 固定金利に変更する
住宅ローンの金利タイプを変動金利から固定金利に変更すると、金利上昇による影響を受けなくなります。固定金利は返済期間中の金利が一定であるためです。
変動金利から固定金利への切り替えは基本的にいつでも行えます。切り替えを検討するタイミングとしては、変動金利の適用金利が上昇してから、実際に返済額の見直しが行われるまでの間がよいでしょう。
なお、固定金利はもともと変動金利よりも高い金利設定であり、金利が上昇した場合であっても変動金利から固定金利に変更したほうがよいとは限りません。金融機関によっては、金利タイプの変更には金利の優遇を受けられないケースもあります。
変動金利と固定金利の金利差を調べて「固定金利への変更が本当に得か」を考えることが大切です。
まとめ
住宅ローン金利は経済や市場の動向に影響を受け、今後も緩やかに上昇する可能性が高いと考えられます。そのため、借り入れを行う際には、金利のタイプや返済方法について十分に検討することが重要です。
また、金利上昇の局面では、頭金を増やしたり繰り上げ返済を活用したりすることで、総返済額の負担を軽減することができます。長期的な返済計画を立てる際には、金利だけでなく、ご自身のライフプランや経済状況を考慮しながら適切な選択を行いましょう。